フラミンゴ                            

故長岡鉄男さんのスピーカーで、もっともポピュラーなもののひとつにスワンがある。
10センチのバックロードである。
特徴は、そのネーミングの通り首が白鳥のように長く、その先にユニットが付いている。
つまり、ユニットの周りには出来るだけ余分なものがない方が音が良いというコンセプトである。
もちろん、それだけでは低域が出ないから、首の下はバックロードホーンになっていて低域を稼いでいる。
このスワンというスピーカーは、何人かのマニアの友人が作っていたから、良いところも悪いところも判っているつもりだ。

一方、今になって冷静に考えてみると、バックロードホーンというのは、駆動する空気の重さとマグネットの強さがバランスしていることが大切だ。
長岡さんのバックロードもCWタイプのものは、D−50までは何とかバランスが良かったが、それ以降のものはマグネットが強すぎる気がする。
どこで聴いても、かなりハイ上がりなのだ。
もちろん、低域はハイスピードなのだが、、、
同じバックロードといっても、伝統的なタンノイなどは、まあ、ゆるゆるである。
現代的な音からすれば、マグネットでホーンを駆動しきれていない。
長岡さんのバックロードも、有名ではないものの中には、こういった甘いタイプもあった。
私が作った中でも、カタツムリのような格好をしたスパイラルホーンも、甘々であった。
その中では、スワンは僅かに甘いもののバランスが良く、きつさは少なく、そういった点からも支持する人が多かったのだろう。

さて、このスワンタイプのスピーカーは、もう何年も聴いていない。
アンプの駆動力が上がり、音源もCDになった今、その音はどうなのだろう。


そこで、手元にあったFE-83Eを利用してフラミンゴを作ってみた。
フラミンゴというのは長岡鉄男さんが設計したスワンタイプの8センチバージョンである。
今回私が作ったのは、長岡鉄男さんへのオマージュも込めて「フラミンゴ」と言っているが、実際は一部音道を参考にさせてもらってはいるが、全くの別物のスピーカーだ。

ユニットはFE-83Eで、8センチなので板厚も少なくて良いだろうということで、12ミリのコンパネを使った。
というか、近所の日曜大工屋で、15ミリのラワン合板は2000円近くするが、コンパネは1000円以下で買える。
音道は2mちょっと、ほぼフラミンゴと同等である。
カットオフも真似させて頂いた。
ただし、ユニットの高さは、床から1メートルある。
スペースファクターを考え、音道とカットオフをフラミンゴと同等にすれば、必然的に背が高くならざるを得ない。

音道はヘッドから本体までまっすぐに降り、そのまま本体をまっすぐ降りて、両サイドに分かれて上昇する。
本体の上から今度は後ろに回り、2つの音道は下まで降りて90度折り返し、合流して全面から出てくる。
スワンタイプで前面開口は珍しいが、AVタイプのブラックスワンは前面開口であった。



また、いつもの私のスピーカーのようにヘッドの中に御影石を入れて支えるなどというのは出来ないから、マグネットは木のブリッジを渡して支えている。

さらに、本体の後ろ側の音道のデッドスペースには、製作時に園芸用の小石を入れている。
長岡さんはこの部分に「鉛の粒」を入れていたが、今ではそんなものオーディオ店で売ってないし、第一高い。
園芸用の小石なら、400円で買ってくれば、フラミンゴが5〜6台分はありそうである。
気のせいか、園芸用の小石は「鉛の粒」に比べて軽い気がするが、そんな細かいことは気にしない。
(最近はコストパフォーマンス優先というより、単にコスト優先の気もするが、、、、)



ヘッドと本体はネジ止め、本体は手元にあった塗料で仕上げた。
バッフルは、6mmのボルトでヘッドを貫通させ、裏板からナットで止めている。
マグネットは、合板でブリッジのようなものを作り支えており、簡易タイプだが、これでもあるのと無いのでは、音のクオリティが大きく違ってくる。
ユニットはいつものように中付けである。
これも、前後から挟み込むからという以上に、中付けの方がフレームからの余分の音が出ず、音が静かになり品位が上がる。
バッフルはわずか12センチ四方なので、その辺に合った布の端切れで適当に仕上げた。
ただし、この布張りも、あるのと無いのでは大違い、あったほうが確実に良い。



さて音出しである。
確かにFE-83Eで作った他のスピーカーより低域は出てくるが、やはり甘い。
長岡さんのオリジナルフラミンゴとほぼ同じ長さの音道にしたから、聴いたことはないが、オリジナルフラミンゴも甘いのだろう。
まあ、もともとマグネットが強くなく、コーン紙も強靭でないユニットなので、叩きつけるような低音は期待すること自体無理がある。


イージーリスニング用ならこんなもんか、、、、、で終わらないのが私である。
実は最近ネットで面白いものを見つけた。
直径12ミリや15ミリのコイン状のネオジウム磁石である。
これが十個ほどで1000円ちょっとで買える。
価格は安くてもネオジウムはネオジウム、強力な磁力である。
これを、FE-83Eのマグネットにぺたぺた貼っていった。
以前から、こうして後から追加するマグネットは防磁効果に使われており、その場合はユニットのマグネットに対して逆極性に張るらしい。
ただし、防磁効果を期待する場合は、同じ種類のほぼ同じ大きさのマグネットを使うのだが、今回のようにフェライトにネオジウムを張るなどと言うのは前例が無く、直径5センチ以上あるユニットのマグネットに僅か12ミリのネオジウムを貼って防磁効果があるとも思えず、正性・逆性、貼る位置、個数など色々試してみた。
その結果、正相に貼るとやはり磁力がアップする気がする。
低域のスピード感が増してくる。
ただし貼りすぎると、中高域がきつくなり、フォステクスのスーパーやSSの印象である。
貼る位置は、出来るだけ中心に近いほうが効果があるようだ。
色々試して、何とか自分にとって最良に近い貼り方に落ち着いた。


こんな実験が科学的に正しいかどうかと言うより、結果を重視し、耳で判断した。
そして、改めてバックロードホーンについて考えると、バックロードホーンというのは、マグネットと「動かす空気」のバランスが重要であることを再確認した。
「動かす空気」というのはうまくは言えないが、スロートの絞り・カットオフ・ホーン長、すべて含めてのことである。
今まで、このことを確認しようと思えば、箱をいくつも作るしかなかったが、ネオジウム磁石が安く手に入ようになったおかげで、このような実験も可能になった。
良い時代になったものだ。
人間長生きはするものである。