ギドラ計画


スピーカーを35年以上も作っていても、過去に面白そうだと思ったが試せてないことが結構ある。
そのひとつに、左右一体型のスピーカーがある。
古くはデッカのデコラやJBLのパラゴン、最近ではエムズシステムの波動スピーカーなど、この方式はオーディオの本流にはならないものの、出ては消え、消えては出て、現在まで脈々と続いている。
江川三郎さんの逆オルソンシステムも、大きくいえばこの方式に入るだろう。
この方式の最大のメリットは、中央の音像の充実だろう。
一般的に出来の良くないステレオは、真ん中の音像が希薄になり、特にボーカル物などで実在感に乏しくなる。
それを左右のスピーカーを一体型にすることで、中央の音像をしっかりさせ、ボーカルを生々しく歌わせる。
さて、本当にそうなるだろうか?

今回作ったスピーカーはあくまで実験機なので、フルレンジ+ウーハーの2ウエイ方式とし、ウーハーBOXは左右一体型の直方体とし、それを45度の角度で正面に向ける。
フルレンジ部分は塩ビ管の先にユニットを取り付け、角度と方向を自由に変えられるようにする。
フルレンジは左右2本でも良かったが、今回は左右各2本の4本とし、方向や角度のバリエーションを豊富にする。
方向は塩ビ管のアタッチメントを換えることにより、真上方向、正面、斜め上45度と3方向を向けられる。
さらに塩ビ管を回転させることにより、左右はどの方向にでも換えられる。
設計している時は「かなり良いアイディア」だと思ったが、出来上がってみると、これが過去に例を見ないほど不思議な形のスピーカーになった。
実は最近、長岡さんの「ヒドラ」タイプのスピーカーを聴いたが、まだこれは左右別々のスピーカーなので「ステレオ」であることが解るが、これが1本となると、、、??


私はあまり自分のスピーカーにペットネームを付けないほうだが、このスピーカーだけは付けたくなった。
名づけて「GIDORA」

ギドラ族には有名なキングギドラを筆頭に、デスギドラやカイザーギドラなどがいるが、その最終進化型が「GIDORA」である。
光をも通さぬブラックホールから生まれたそれは、漆黒の体躯を持ち、首は4本。
「GIDORA」には、種の保存本能はおろか、自己防衛本能すらない。
あるのは、ただ破壊、ただただ破壊のみである。
さて、このマヤ暦の世紀末前年に私の呼び寄せた「GIDORA」は、この歪みきったオーディオ界を破壊しつくすのであろうか、、、


ユニットはウーハーは手持ちのFW200、フルレンジはFE83である。
これをウーハーに8.2mHのコイル一本で繋ぐ。
何のことは無い、最近大型ゴミに出した某スピーカーから取り外したユニットそのものである。
ウーハーのボックスは約45リットル、内部に仕切り板は無く、左右一体で45リットルである。
フルレンジは塩ビパイプで2〜3リットルしかない。
このまま密閉式だと音か詰まってしまうので、空気抜きの穴を開け、中にやんわりと脱脂綿が入っている。


出来上がったのはこんな形のスピーカーである。










さて、出て来た音は、、、、
確かに中域の実在感は若干増すようだ。
ボーカルが生々しいと言えなくも無い。
ただ、これはもうステレオではなく、どう聴いてもモノラルに近い。
左右の広がりが足らないのである。
この写真を撮る前に、首を回転させたり、真ん中の2本を正面ではなく45度上方に向けてみたり色々試してみたが、首がある程度リスナーの方を向いてないとかなりハイ落ちになるし、リスナーの方を向けるとモノラルに近くなる。

実は、ここで過去の苦い経験を打ち明けるが、昔長岡さんのマトリックススピーカーを聴いた時に、みんなは「ヘリコプターが上空を飛んでいる」とか「地下鉄の音が足元から聴こえる」とか言っていたが、私には全くそうは聴こえなかったのである。
しかし、若かった私はそれが言い出せなかった。
今回、恐る恐る何人かの友人に聴いてもらったが、みんな「モノラルに聴こえる」そうでほっとした。
今から思えば「ヘリコプターが上空を飛んでいる」ほうが、プラシーボだったのかもしれない。


結局、このマヤ暦の世紀末前年に私の呼び寄せた「GIDORA」は、歪みきったオーディオ界を破壊するには至らなかった。
それが良かったのか、悪かったのか、、、、
少なくともオーディオ界は、あと少し、束の間の平穏を享受することになった。
なんのこっちゃ?