マルチバスレフスタンダード

マルチバスレフも何作か作って、だいたいのことが判ってきた。
マルチバスレフは今までに無い新しい方式で、ダブルバスレフの延長ではない。
ダブルバスレフは共振点が少ないせいで、どうしても中低域に中だるみが出るし、音はゆったりを通り越して下手をすると反応が鈍くなる。
私のマルチバスレフは、外側のダクトを高い方の共振周波数にしているか、あるいは内と外のダクトの共振を交互に取っている。
さらに外側のダクトにホーンをつけて低域の回り込みを減らしているので、比較的低域が前に出てくる。
ただ、それはあくまでホーンを付けた時と付けない時の比較で、バックロードのようにぶつかってくるような低域ではない。
どちらかと言うと軽い低域だ。
うまくは言えないが長岡さん以前のバックロード、たとえばハークネスとかGRFとか、そんなイメージである。

また、ダブルバスレフはパイプオルガンとかは良く鳴るかも知れないが、オーケストラを聴くと中低域不足が著しい。
このようなスピーカーはどうしてもパイプオルガンなどの超低域楽器ばかり聴きたくなるが、低域はあくまで中域とのバランスで判断すべきで、音楽全体の中で低域がどう鳴るかが重要である。
その点、共振点をいくつも持つマルチバスレフは、レンジを欲張りすぎずうまくチューニングするとかなり良い腺まではいく。
最近良く作っているフォースバスレフなら共振点が6つ、フィフスバスレフなら共振点が8つある。
中低域が中だるみしないようにうまく調整すると、今までの方式には無かった音を聴くことが出来る。


さて、かなりメリットの多いマルチバスレフではあるが、今回はマルチバスレフのスタンダード的なものを作ってみることにした。
あまり大きくなるのも嫌なので、口径は8センチのユニットを使う。
エンクロージャーもシンプルになるように、フォースバスレフとした。
あと、出来るだけ費用のかからないもの、工作の簡単なものを目指した。
音を聴いて気に入ってくれた友人がいれば、気軽に作ってあげられることも念頭に置いた。

ユニットは8センチでスタンダードなものといえば私の中ではこれしかない。
FE-83Eである。
FE-83Eは過去にも様々なボックスを作っているが、中高域は良く伸びていて細かく、ボーカルもかなり良い。
問題は低域だ。
F0は高いし、マグネットはそれほど強くない。
さらに問題なのは、コーン紙が薄いせいか中低域が腰砕けになる。
FE-83Eを良く聴いてみると解るが、ピアノの最低域がどうしても弱くなる。
弦が張ってこないのだ。
そこをマルチバスレフで何とかしようという試みである。


さて、出来るだけシンプルにという事で、ホーンはバックロードのように低板から45度の角度で立ち上がってくるタイプとする。
本当は前面にダクトがありフロントホーンのように広がるタイプの方が癖が少なく感じるが、ホーンの削り出しがかなり面倒になる。
エンクロージャーは主空気室が5.4リットル、副空気室が3つでそれぞれ4.5リットル、高さは60センチ、幅18センチ、奥行き27センチとなった。
それでも合計20リットルくらいあるから、8センチとしてはかなり大きなエンクロージャーである。



ダクトは例によって塩ビ管のエルボーを使ったが、これが内径3センチのもので、この径になると給水管用だが、これがかなり肉厚で、パイプを挿すと5ミリの段差が出来る。
多分、この段差で共振周波数が変わってしまうと思うが、例によって無視する。
また、厳密に言えばダクトの容積そのものもエンクロージャーの内容積から引かなければならないが、これも無視する。
当たり前のことだが、ダクトの前のホーンの負荷により共振周波数が変わったりするがこれも無視する。
まあ、私のスピーカーの設計は所詮こんなものである。

共振周波数は中のダクトと外のダクトを交互に取る。
中のダクトが125Hz・80Hz・50Hz、外のダクトが100Hz・65Hz・40Hzである。
ちょっと周波数を欲張りすぎたかなとも思うが、オーケストラを聴こうと思えば40Hzは欲しい。


バッフルは例によって布張りである。
布は厚手のものならデザイン優先で良いと思うが、ストレッチ性があった方が貼りやすい。
布は「ユザワヤ」や「ノムラテーラー」で買うが、私以外レジに並んでいるのは全員女性で、最初はこっぱずかしかったが、こんなことを20年以上もやっているとなんともなくなった。
まあ、初めて「ノムラテーラー」に行った時はまだ20代で独身だったから、いまから思えば初心だった。

合板はラワンの12mm、うまく購入すると1000円以下で買える。
板厚が薄い気もするが、このエンクロージャーは中が区切られているせいかあまり箱鳴りは感じない。

さて出て来た音はどうか?
簡単に言うと、中高域がどうとかいうより、かなりの低域不足である。
確かにFE-83Eを小さなバスレフに入れたよりは低域が出てくる。
だが、オーケストラは腰高になり聴けたものではない。
吸音材やダクトを調整してみたが、そのレベルではない。
やはり、周波数を欲張り過ぎたか、、、、


さて、どうするか、、、、
エンクロージャーを作り直すか、、、
しかし、FE-83Eではこの低域不足はどうしようもない気がする。
失敗か、、、、、でもめげない。


そこで、困ったときの麻布オーディオ京都店さん、いそいそとユニットを聴かせてもらいに出かけた。(いつもすみません)
ここはほとんど通販専門なのか、あまり来客を見かけない。
ご迷惑だとは思うが、ゆっくりユニットを聴かせて頂く。
8センチで比較的中高域が穏やかなもの、、、
さんざん迷った挙句、選んだのはTBのW3-517SB、木製のフェイズプラグが付いているカッコいいユニットである。
実はこのユニットは前から使ってみたかったのである。
バッフルは、なんとほとんどFE-83Eと同じだった。
そのまま付け替えて、しばらくエージングする。




さて、音は、、、
うん、FE-83Eよりましなものの、相変わらず低域不足である。
さらにエージングする。
やはり低域不足だ、、、

今度こそ失敗か、、、、、
でも、これでもめげない。


今度はネットでユニットを探す。
目を付けたのか、コイズミで売っているフォスター電機のもの、FF80BK、、、や、安い、1470円、、、E-83Eの半額以下である。
このユニットに目を付けたのは2つの理由がある。
ひとつはパルプコーンであること、、、私はパルプコーンの素直な中域が好きだ。
もうひとつが能率が低いことである。
81dbしかない。
マルチバスレフは基本がバスレフなので、バックロードのように低域の駆動力はさほど必要ない。
低域は箱の共振で出てくる。
ということは、相対的に中高域の能率が低い方が良いのではないかと当たりをつけた。
(決してユニットを価格で選んだのではない、、、、、本当です、信じてください、お奉行様)

ユニットが来てみると今度は口径が合わない。
仕方なくバッフルを作り直す。
同じ布ではゲンが悪いので、今度は違った布を貼る。



さて、出て来た音はどうだったか?
エージングも何もない。
音が出て来た瞬間正解だった。
低域がバランス良く出てくる。
中高域は少しエージングした後は、非常に聴き易い音である。
切れ込みは必要充分だが、ボーカルが良い。


ということで、何とか完成まで漕ぎ着けた。
若い頃は力任せで、音が悪いとすぐにエンクロージャーを作り直していたが、最近はユニットを交換したり、吸音材も何度も調整する。
大人になったものである。(決してジジイになったわけではない)