ノンオルソンスワン

ノンオルソン方式(あるいは逆オルソン方式)は江川三郎さんが考案されたスピーカーの配置方法である。
両チャンネルを真ん中に近づけ、さらに外側に角度をつけて配置するというものである。
これが最初に提案されたのはもう30年近く前のことだと思う。
それ以来、私も折に触れ実験的に試してみたりしていたが、以前から「これなら自作で一体型のものが作れないか?」と思っていた。

長岡さんが考案された「スワン」はあちらこちらで聴いていた。
友人宅でも聴いたし、少し前なら東急ハンズでも聴けた。
聴いて思ったことは、これは同じバックロードでも「D−55]などとは全く違うタイプのスピーカーであることだった。
「D−55」の少しハイ上がりの叩きつけるような音ではなく、割とゆったりとしたバランスの良い音である。
置き場所の関係で一度も制作していなかったが、このタイプのスピーカーはいつかは作ろうと考えていた。

フォステクスのFE126Eはそのマグネットの巨大さに引かれて購入し、色々な箱に入れてみたが、かなりハイ上がりで使いにくいユニットである。
今のEシリーズは割りとバランスの良いユニットが多い中で、異色ともいえる。
この暴れん坊をバックロードホーンのエンクロジャーに入れ、さらに正面を向けず軸上を外すことで、バランス良く聴けないかと思った。


こういったことをもやもやと考えているうち形になっていったのが「ノンオルソンスワン」である。
まず、基本的な構造はスワンタイプとし、両チャンネル一体型で、ユニットは45度外側に向けて角度をつける。
「これはいいぞ」と設計段階では思ったが、何のことはない、長岡さんの設計された「AV−1」と大差ないではないか?
さらに、スピーカーというものは、このような3つの実験をかねたようなものはたいてい失敗する。
自分の狙いのうち、どの部分が成功で、どの部分がいまいちなのか良くわからないケースが多いのだ。
実験するなら、ひとつづつパラメーターを変えていかなければならないのだ。
予断になるが、スピーカーの調整中に内部配線を変えようと思ってバッフルを開けると、つい吸音材もいじってしまうことがよくあるが、何が効いて音が変わったのか良く解らない。
こういう失敗ははちょくちょくするが本当に困ったものである。


さて制作である。
設計のほうは長岡さんの「スワン」や「レア」を参考にしながら何とか行ったが、およそバックロードホーンの設計は「正解」というのがないから、これで良いのかどうか、、、、?
バックロードで難しいのは、ちょっとした設計であまりにも大きく音が変わることである。
しかも長岡さんのように「仕上げなし」「吸音材なし」ではほとんど一発勝負なので、後からどうしようもない。

今回は板厚は20ミリである。
それもラワン合板ではなく床板用のパーチクルボードのようなものを使っている。
かなりしっかりした板だが、1800円くらいである。
さすがにヘッドに御影石を入れるのは設計上無理があったのでL字型の木でユニットの後ろを支えている。
このスピーカーで箱鳴りまで加わったのではさらに訳が解らなくなるので、その点には注意した。
バッフルはボルトナットで取り外せる様にし(このボルトナットも私はいつも建築用の12ミリのものを使っている)、ネック部分と本体もボルトナットで取り外せるようにした。
仕上げは基本はペイントである。
色は今回はカーキ色にした。
色も昔はパステルカラーなども試してみたが、長く使おうと思えは茶系、グレー系などになるようだ。
このような複雑な形をしたものは、いつものように布張りは出来ないから、今回はバッフルだけを布張りとした。


完成したものを部屋に入れてみた。
最初の感想は「大きい、、、、」
こういうことは良くあることだが、図面でイメージしたものと完成品では良い意味でも悪い意味でもかなり異なる。
確かに置けるには置けるのだが、、、
設計している時は、わくわくしてかなり「熱く」なっているので余計である。


さて音であるが、思った以上にFE106E臭い。
私のあまり好きでないやや硬質のFE106Eの音がそのまま出てくる。
ユニットの軸上を外すことで高域部分は落ちているが、ユニットに角度をつけたくらいでは中域の質感までは変わらないのだ。
ちなみに後からヘッドの部分に真綿を入れてみたが、硬質なのは少しはましになるがまだ硬い。

それとさらにまずかったと思ったことは、折り返しの関係で開口が下に来ているが、置き場所の後ろがカーテンなので想像以上に低域が出ない。
試したわけではないが、このような条件の場合、開口を上方に持ってきたほうが良かったのではないか?

外観は本体にも角度をつけたことで不必要なバッフル効果をなくしているし、見掛けもこの方が良いと思う。
(ただし、友人からはいつも「お前のデザイン感覚はなあ〜」とは言われているが、、、)
本体に角度を付けたデメリットとしては、このせいでさらに置き場所を取っているようだ。

ノンオルソン方式については、これはソース次第と言える。
ソースによって良い場合もあるし、良くない場合もある。
昔聴いたマトリックス方式よりは、かなりかなり使い易い。
というか、マトリックス方式は私の耳にはほんの一握りのソースでしか効果がなかった。
通常のステレオ方式とノンオルソン方式では、聴くソースによってどちらでも良い感じである。


これを次作で作り直すとすれば、まずはユニット選びかなあ〜
FE106EはどちらかというとEシリーズになる前の狽ニかSに近い感じで、この音が好きな人もたくさんおられるとは思うが、、、
それと後は開口かなあ〜
一度このスピーカーを硬い壁の前で使ってみたい気もするが、、、
という訳で、スピーカー作りは、やればやったで次のアイディアが出てくるものなのだ。
今回は「こんなん出来ましたけど〜」という感じかなあ〜


誰か持って帰ってくれませんか?